「ある店の物語」
ちょっと郊外のバイク屋。
そう今までは自転車屋さんだったが近所のお得意の親が
息子にせがまれスクーターを買わされるようになって
バイクも置いてよーっていう要望で
しょうがなくバイクでも2,3台店先に並べてみるか、と
いったようなやる気のない店。
今日も昼まで新聞よんでストーブ前の丸イスから
腰をあげ、昼のニュースでも見るかとNHKにチャンネルを
合わせたそのころ。
中年の口ひげが少し生えたおやじが入ってくる。50代後半くらいか。
頭は少し前のボクサー具志堅を思い出させる伸びたパーマ。
そう寅さんの映画に出てくる、境内の掃除する人、
あれ誰だっけなあ、まそう言う感じの人。
開口一番。
ここはバイク屋ですか?
またか。。。主人はたちまち不機嫌になる。
あ、はいそうです。
(馬鹿息子に与えるバイクでも買いにきたのか?)
店が小汚いのは承知だがバイクを並べているところに
バイク屋ですかと聞かれることにいつも不満をもっていた。
どうしました?
親父さんは答える。
いや、不要なバイクがあるので引き取ってもらえないかなと。
(ああ、そういうことね、どうせ動かなくなったバイクを買ってくれってことだな)
不機嫌な気持ちで淡々と返事が出る。
どんなバイクなんですか?
いやオフロードなんだけど、昔乗っていたんだけど不調になってから
乗らなくなってそろそろ捨てようと思っていたんでね、
引き取ってもらえるなら持ってくるよ。
(ま、そういうことだろうな、でもなあ置き場もあまりないしなあ)
うちは修理がメインであまり大きなバイクは売れないから
置きたくはないんですよ、
もし乗られるんなら安く修理させてもらいますよ。
いや、もう乗らないと思うから引き取ってよ。
あ、そうですか、あまり高くは買えないですけど
見て判断させてもらいますから。
いいよ、ただで引き取ってくれるならそれでいいから。
いや、バイクにも価値があるからいくらか出しますよ。
店主は実はバイクが大好きで、
もの余りの世の中でなんでも使い捨ての風潮に
嫌気がさしていたので、ちょっとむっとなりながらも
バイクには悪気はないと、いくらか払うことを約束した。
夕方になってバイクを押してくる親父さん。
おおXT250Tだ。かなり錆びてくたびれているが、
店主はちょっとうれしくなる。
根っからのヤマハファンでXTの初期型も持っていたので
80年代とは言えツインカムのXTに乗ってみたかったのである。
XRなんて出来すぎていて嫌いだい。(急に江戸っ子ぶる)
飛んで着地して脳にズシンと来ない、最近のいいサスの
バイクも全然興味がない。単に高くて買えないという
ひがみも入っているのだが。。。
(とりあえず1万円くらいは払っておこうかな。)
すみません、1万円くらいでいいですか?
もうちょっと払いたいんですが、こちらもきついので。
これは本音だった。毎月の売上が数万円程度の店で
いくらも払えるわけはなかった。
修理すれば10万円くらいで売れるバイクだし、
消耗品を考えても3万円くらい払っても元は取れるバイクだ。
ちょっと欲が働いたか。
親父さんは。。。
いや、本当にいいんだよ、お金は。
大事にしてくれる人に乗ってもらえたら、それでいいよ。
僕も昔はこういうオフロードバイクで河原を飛んだりしてね、
楽しかったなあ。
なんか長い思い出話を喋りだす
(どうしようか。。。これは長い話になりそうだ)
あ、じゃあ5000円でどうですか?とお金の話でさえぎる。
いやいいよ、預けるよ、廃車するのも費用かかるでしょ。
それで払っておいてよ。じゃあ。
明るい笑顔で親父さんが去っていった。
店内に新人が現れた感じである。
XTも緊張した面持ちで小汚い店に何とか馴染もうとしている。
さて、長い睡眠から起こしてやるか。
仕事が暇だったこともあり、早速手をかけてみる。
サイドカバーを外す。死んだバッテリが見える。
バッテリの端子が真っ白の粉に埋まっている。
ねじを回そうと工具を挿すとボロっと折れてしまった。
うーんこれは多分4,5年は放置してあるな。
シートを外すと書類が出てくる。最後の自賠責は昭和だ。
なんだもう10年以上も乗ってないのか。
大変そうだな。エアクリーナのフィルタを取る。
腐ってて軽く触れるだけでぼろぼろになる。
ガソリンの腐った臭いがツーンと来る。
手にも乗り移る。きょうの晩御飯もガスくさくなるな。
店主は心を決めて作業を進める。
気が付いたら深夜1時になっている。
ああ、晩御飯たべないと、もうシャッター閉めないと近所迷惑だ。
すっかりのめりこんでいた。
タンク内がさびていたので風呂場に持っていって
錆取り液とお湯を混合してタンクを満たす。
店で一人暮らししているので風呂場は作業場と
化すことが結構ある。手足が濡れておお、さぶい。。。
店に戻ると、ばらばらになったXTが、何もいわずこちらを見ている。
あしたな。。。
店主は店の電気を消して晩御飯を作ることにした。
朝起きて何台かのバイクを店の外に出す。
XTは他のバイクより大きいがタンクシートを
外されたストリップでは細身で意外に場所を取らない。
さて昨日の続きだ。タンクの様子を風呂場に見に行く。
タンクから錆取り剤を抜くとものすごくピカピカになっている。
最近の中性水溶性タイプの錆取り剤は本当にすごい。
昔はボルトや石を入れて中でシャカシャカと振り回して
取ったが本当に楽になった。
そのままでは錆がまた発生するので、
エアーとドライヤーで乾かし、オイルを隅々まで流し込んでおく。
さてキャブだ。キャブとプラグさえきれいにすれば
エンジンは案外動くものである。
固着が激しい内部であったが、店主にとっては
お手の物である。これもケミカルの進歩に頼ってしまう。
並行してタイヤを取り、裏庭にある中古タイヤをあさってくる。
ホイールベアリングがガタガタなので適当なものを
引出しから探り出して交換する。店内は意外に不良在庫パーツが
あったりするのである。
なんか楽しいな。
どういうわけかXTにのめり込んで3日くらいたっていた。
途中パンク修理の仕事やカギの交換などの仕事が入ったが
頭の中はXTをどうしようかなあと。。。
1週間後、XTは出来上がっていた。
普段は掃除して再使用するプラグもなぜか新品をつけていた。
キックする。かからん。キックキックキック!
あ、キルスイッチOFFになっていた。
ひとり苦笑いしながら気を取り直しキック。
一発であっけなくかかる。白煙がすごい。
急に起こすと壊れることもあるので、
古いバイクは混合ガソリンで起こすと店主は決めているのだ。
プラグホールからのオイル注入も怠りなく。
それらが最初一気に燃え出すのであたりは霧がかかったように
真っ白になっている。
アイドルが落ち着く間もなく、走り出してみる。
お、気持ちいい。
店主はかなりご機嫌になる。
これ、自分で乗ろう。
その日のうちに名義は自分のものになって
保険も入れてしまった。部品に2万、
保険に4万かかっちまった。あとで苦しくなることに
気が付かないのである。バイク馬鹿の典型。
店に出入りする高校生がオフバイクを乗っているので
いっしょに引き連れて河原に行く。
ジャンプとかその場でアクセルターンなんぞを
見せると高校生は、ぽけーっした顔で
このおっさんこんなことできるんか?ってな
ことを思っているようだ。店主は誇らしげに10代の技を披露する。
高校生も段差を利用してジャンプするが
タイミングが合わないようである。
店主は誇らしげに、バイクの気持ちを読むんやで!
飛ぶときは、伸びるでーってサスが言ったら
ふっと体をバイクから浮かすんや。
高校生は訳のわからん大阪弁にあきれている。
店主は大阪育ちなので機嫌良いときとか
切れてるときは大阪弁なのである。
そんなこんなでカラスが鳴くころ、店に戻って仕事をはじめる。
しばらくXTを乗り回していた。
久しぶりにひげ親父が現れる。
おお、バイク動いているんだねえ。どう?
いやあ楽しいですね、このバイク。
まわすと速いし、低速のトルクも十分。
なんと言ってもこの分厚いシートが
楽チンですわ。
いやあうれしいよ。乗ってくれていて。
いやあ実はね、今度引越しすることになったんだよ。
新しい住所はここだから。
と紙切れをもらう。
風貌に似合わずものすごいきれいな字だった。
あ、ここならバイクで30分くらいですね。
いやあいいところだし、今より広くなったからさ
ほんとに遊びにきてよね。
田舎だしバイクで来るといいところだよ。
はい、ぜひ遊びに行きます。
まだ2回しか会ったことがないのに
ずいぶん親切だしいい人だ。
多少社交辞令的なところもあったが
近くに行ったらよってみよう。そう思った。
夏が近づいてきて仕事が忙しくなり、
XTで遊ぶ時間もほとんどなくなっていた。
そこへ古い友人が乗りたいと言うのであげることにした。
いくらかお金はかかったが、親友だし、まいいか。
任意保険を即効で解約する。月払いにしていたので
返金で損をするのも防げた。貧乏は意外に損をしない。
年払にしていると途中解約ではかなり割り引かれて損するのだ。
XTも友人が大事に乗ってくれそうなので安心だ。
しばらくしてひげ親父から電話が来た。
ああ、お久しぶりです。
実は息子のバイクの調子が悪いので見てやってくれ。
はい、もちろんです。
以前ただでXTもらいましたから無料でいいですよ。
いやあ助かるよ。でもバイクは都内にあるんだよ。
車に積んで今度持っていくから。
あ、取りに行きますよ。お世話になりっぱなしですから。
いや、事情あってね、引越しとかでごたごたしているから
こちらから持っていくよ。じゃあ。
またあっさりさわやかに切られてしまった。
数日後リード50が入ってきた。
タイヤ交換とキャブのオーバーホール程度で簡単に直った。
お金はもらわなかったが、息子さんが取りに来て
親父さんと久しぶりに会ったと言っていた。
どうも引越しを機に子供が一人暮らしをはじめたらしい。
このリードで都内まで乗って帰るといういう。
いやあ遠いから気をつけてね。
彼は手を大きく振りながら夕闇へと消えていく。
親父さんも
いや、家の方もさ落ち着いたからさ
遊びに来てよ。
すっかり忘れていた。
今度遊びに行こう。手帳の住所を確認した。
数年後。。。
二人組みの若い男性が入ってくる。
中古のバイクを探しているんですが。。。
どういうの?オンロード、オフロード、それともスクーター?
店も少しはバイク屋らしくなっていた。
いやなんでもいいですけど安いのを。
(またか。。。)
店主はまた少し不機嫌になる。
こうも安いバイクが世の中にあふれてしまうと
いつか買ってやる!っていう夢のようなバイクとか
そういうのがなくなるんだろうか?
高いとか安いとかじゃなくてこれに乗りたいってのないんかな?
冷やかしかなあと半分あきれながら
よく見るとどっかで会ったことある顔。
昔親父がこちらにバイクあげたって言ってましたよ。
あっ、と思い出す。
XTのああ、あの息子さんか、久しぶりだねえ。
2年ぶりくらいだね。車乗ってるんだ。バイクに戻るの?
そうそう親父さん元気?遊びに行くって言って
すっかり時間たってしまったからなあ。
いや、まあ。
言葉を濁すように、言う
ちょっとタバコ買ってくる。そう相棒に言い残しコンビニへ。
相棒が私に小さな声で。
親父さんね、もうずいぶん前に死んだらしいんです。
え?うそ?
引っ越した先でね、自分で。。。。。
一瞬で走馬灯のように駆け巡る。
最初にバイクを持ってきたとき、、、
お金はいらないからさあ、
ほんとにいらないんだよ、
引越しするからさあ、
新しい住所ここだから
ぜひ遊びに来てよ、
落ち着いたからさあ
遊びに、、、
奥さんは小さいころからいないと聞いていた。
詳しくは聞けないから男親子二人仲良く育ったんだと思っていた。
引越しはなんだったんだろう。
あのXTは。
親父さんは本当はもっと違うことを話したかったんじゃないだろうか?
ふと思い出した。
お金なんてさ、いらないんだよ、
誰かいい人に乗ってもらいたいからさあ。
受話器を取る。
おお、久しぶり、
なあ、あのXTどうしてる?
ああ、あれ、
すぐに調子悪くなったから捨てちゃったよ。
あ、そう。
いや、もしあったらね、ちょっと乗りたいなって思ってさ。
お前んちバイク屋だろ、他にオフ車無いのか?
いや、あれに乗りたくなっただけだよ、
ありがと、またな。
あの時は間違いなく生きていた。。。
感想はこちらへ!yada@hueys-gr.com
ご自分で色々お考えになったあとにあとがきをお読みください。
あとがき
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